4月23日の記事では、愛知県がんセンター 副院長兼頭頸部外科部長 花井 信広 先生に、臨床試験段階だった頭頸部アルミノックス治療や同センターで実施した本治療に関する最新の研究発表についてお話を伺いました。今回は、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)の頭頸部がんグループ事務局を務められる花井先生に、同グループにおける頭頸部癌治療の発展のための取り組みや、海外での頭頸部アルミノックス治療に対する関心度などについてお話を伺いました。
※アキャルックス®点滴静注250mgとBioBlade®レーザシステムによる治療における警告を含む使用上の注意等の詳細は製品基本情報(電子添文等)をご参照ください。
JCOGにおける頭頸部癌治療の発展、海外でのプレゼンス向上
日本臨床腫瘍研究グループ(以下、JCOG)の頭頸部がんグループでは、頭頸部癌治療領域における標準治療をさらに発展させるため、国内で39施設(2024年4月時点)が集まり、大規模臨床試験を実施しています。本グループの活動における臨床試験でエビデンスを示すことができれば、グローバルでも日本の頭頸部癌治療のプレゼンスを向上できると考え、海外に向けた発信も行っています。例えば、本グループが実施した「局所進行頭頸部扁平上皮癌術後の再発ハイリスク患者に対する3-Weekly CDDPを同時併用する術後補助化学放射線療法とWeekly CDDPを同時併用する術後補助化学放射線療法に関するランダム化第Ⅱ/Ⅲ相試験」(JCOG1008)の成果は、米国学術雑誌「Journal of Clinical Oncology」で発表されました1。
海外医師たちも実臨床における頭頸部アルミノックス治療に大きな関心を寄せる
頭頸部アルミノックス治療に関しては、JCOGで扱うのは先になると思いますが、2023年は米国や台湾、インドなどの国際学会で本治療に関する発表が多く見られました※。私自身も、昨年7月にカナダで開催された米国頭頸部学会(American Head and Neck Society)の11th International Conference on Head and Neck Cancerで本治療の開発経緯や当院での症例などを発表しました2。その際、Thomas Jefferson University(米国・フィラデルフィア)のDr. David Cognettiからの依頼で、実臨床の経験から得た施術の注意点や、安全性の担保のために日本頭頸部外科学会で実施している術前検討会などについてお話しました。
座長を務めてくださったTata Memorial Center(インド・ムンバイ)のDr. Pankaj Chaturvediからは、術前検討会で適応とならなかった症例とその理由について質問を受け、十分にリスクが評価されていなかったことが施術に進まなかった大きな要因であることを説明しました。楽天メディカルが実施中の局所再発頭頸部扁平上皮癌を対象としたASP-1929-301試験(linicalTrials.gov Identifier: NCT03769506)がインドでも開始される時期だったため、先生も症例の適否についてご関心があったのだと思います。
※国際学会の発表に関する詳細はこちら(https://rakuten-med.com/jp/news/press-releases/2024/03/01/8526/)をご覧ください。
実臨床の機会を大事に、頭頸部アルミノックス治療を次のステージへ
ASP-1929-301試験(現在進行中)を担当されている海外の治験医師たちからは、実臨床で頭頸部アルミノックス治療ができることについて「羨ましい」との声を聞きます。日本における本治療の適応症は「切除不能な局所進行又は局所再発の頭頸部癌」ですが、臨床試験では、選択基準・除外基準が設けられ治療を受けられる患者さんに制約があることや本試験では対照群に振り分けられる可能性があることを考慮すると、海外の治験医師が羨ましがるのも理解できます。日本は、実臨床で頭頸部アルミノックス治療が実施できる唯一の国ですので、この機会を大事にしていこうと感じました。
頭頸部アルミノックス治療は、全国約150カ所で治療が提供可能となり、450回以上の施術が行われ、本治療は次のフェーズに入っていると思います。国際学会の発表でも症例紹介のみにとどまらず、実臨床データとして報告するためにも私が研究責任を務める「切除不能な局所進行または局所再発の頭頸部癌患者を対象としたアキャルックスおよびBioBladeレーザシステムによる頭頸部アルミノックス治療※の有効性および安全性に関する観察研究」(jRCT番号:jRCT1041210120)を迅速に進めていくことが海外における頭頸部アルミノックス治療の開発加速に繋がると考えています。
※2022年4月1日より「イルミノックス™(Illuminox™)」から「アルミノックス™(Alluminox™)」に名称を変更しています。
ドクター人生の道しるべ
形成外科医の興味から頸部郭清術のトップ頭頸部外科医へ
学生時代に美容形成外科医の漫画を読んで、面白そうだなと思い、漠然と形成外科医への興味を抱いていました。そこで私は、名古屋市立大学 耳鼻咽喉科の教室で形成外科診療班が所属している腫瘍グループに入りました。本当に耳鼻咽喉科について何の知識もなく、今となっては笑い話ですが、耳の手術である鼓室形成術も形成外科の手術の一種だと思っていたほどです。入局一年目は、扁桃摘出の手術を行う人が多かったですが、私は主に再建手術に携わっていました。腫瘍も切除して、再建も行える二刀流の頭頸部外科医になる意気込みで、両者の技術を習得するためにはどこかの専門施設へ修行に行かなければいけないなと考えていました。翌年の日本頭頸部腫瘍学会(現在は日本頭頸部癌学会)における頸部郭清術のセッションで愛知県がんセンターの手術動画を拝見した際、圧倒的に美しい手術に魅了されました。愛知県がんセンターに修行に行き、頭頸部外科医になろうと決意したのはその時でした。学生時代は、がんに携わることについて考えてもいませんでしたが、ハイボリュームセンターである当センターで頸部郭清術の手技の発展に努め、頭頸部癌に対する最新治療も導入させていただき、頭頸部がん患者さんに貢献できるよう日々、邁進しております。
参考文献
- Kiyota N, Tahara M, Mizusawa J, et al. Weekly Cisplatin Plus Radiation for Postoperative Head and Neck Cancer (JCOG1008): A Multicenter, Noninferiority, Phase II/III Randomized Controlled Trial. J Clin Oncol. 2022 Jun 20;40(18):1980-1990. doi: 10.1200/JCO.21.01293.
- Hanai N. An experience of Alluminox treatment for head and neck cancer in clinical practice in Japan. Abstract: S403. The 11th International Conference on Head and Neck Cancer of the American Head and Neck Society. July 2023.