愛知県がんセンター 副院長兼頭頸部外科部長 花井 信広 先生が、頭頸部アルミノックス治療に出会った6年前、当時の本治療の印象や国内で保険診療が開始される際の準備、そして現在に至るまでの本治療の変遷についてお話を伺いました。
※アキャルックス®点滴静注250mgとBioBlade®レーザシステムによる治療における警告を含む使用上の注意等の詳細は製品基本情報(電子添文等)をご参照ください。
頭頸部アルミノックス治療との出会い
2018年に、ドイツのミュンヘンで開催された「第43回欧州臨床腫瘍学会」(以下、ESMO 2018)で、ASP-1929を用いた光免疫療法(現:頭頸部アルミノックス治療)の局所再発頭頸部扁平上皮癌に対する国際共同第Ⅲ相臨床試験(ASP-1929-301/ClinicalTrials.gov Identifier: NCT03769506)に関する会議に、当院の薬物療法部長である室 圭 先生からお誘いを受け参加しました。それが頭頸部アルミノックス治療との最初の出会いです。
ESMO2018は、頭頸部癌領域におけるさまざまな新しいエビデンスが発表された学会でもありました。現在の再発頭頸部癌の標準療法である「KEYNOTE-048」試験1の結果が発表され、再発・転移の頭頸部癌治療のファーストラインが変わりました。HPV陽性中咽頭癌に対する「De-ESCALaTE HPV」試験2の結果も本学会にて発表されています。私自身は、日本臨床腫瘍研究グループ(以下、JCOG)で実施している舌癌に対する予防的頸部郭清省略の意義を検証する「JCOG1601」試験3をTrial in Progressとして発表しました。6年前は、今までと異なる頭頸部癌治療が始まると感じた年でした。
頭頸部アルミノックス治療の話を伺った際は、夢みたいな治療法だと思いましたが、国内で実施された「ASP-1929-102」試験4の症例を見て、これは簡単ではないかもしれないと思いました。今まで誰も行ったことのない治療に関する「ASP-1929-301」試験を開始するにあたり、当院でも治療の説明を幅広く行う必要があり時間を要しましたが、私自身はやりがいも感じていました。
日本頭頸部外科学会に「頭頸部アルミノックス治療運営委員会」を設置した経緯
頭頸部アルミノックス治療に用いる医薬品「アキャルックス®点滴静注250mg」とレーザ光照射に用いる医療機器「BioBlade®レーザシステム」の承認審査が進められる中、日本頭頸部外科学会は楽天メディカルから相談を受けました。同社は、独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)から、安全性に留意した治療が実施できるよう関連学会と連携するよう指示を受けたためです。両者で協議を重ね、同学会に「頭頸部アルミノックス治療運営委員会」が設置され、以下2つが定められました。
① 未治療施設※について、3施術例目までは「頭頸部アルミノックス治療運営委員会」へ申請を行うこと
② 頭頸部アルミノックス治療に関する技術および知識の習得のために、日本頭頸部外科学会および日本レーザー医学会後援・指導のもと、楽天メディカルが主催する講習プログラムを受講すること
当初、本委員会は治験による本治療の実務経験のある頭頸部外科医で構成されていました。① の実施にあたり委員会による術前検討会を導入し、本検討会が開催される前までに委員会メンバーが講習会を修了して医師要件を満たし、さらに、施術に立ち合い指導するための指導医の申請も行いました。ちょうどコロナが流行していた時期だったため、フェースシールドを着用し、対面で講習会を実施したことを今でも鮮明に覚えています。
※当時は、耳鼻咽喉科・頭頸部外科のみで治療提供が可能だったため施設単位で3施術までと定められました。現在は、歯科口腔外科でも治療提供が可能なため、診療科ごとに最初の3施術までは術前検討会が必須となります。
3年間で発展した頭頸部アルミノックス治療
2021年に、全国20カ所で頭頸部アルミノックス治療が提供開始となりました。今までにない治療法だったことから、治療結果が事前の想像と異ならないように医師や患者さんに本治療に関する副作用について十二分に説明していました。
約1年後には、治療可能施設は約60カ所まで増加し、本治療に関する知見が蓄積され始めました。頭頸部アルミノックス治療運営委員会は、本治療における各標的病変部位の適応判断や留意点を掲載した「本邦での治療実施症例の要約」の初版を作成しました。新しい運営委員会メンバーによって2023年9月、そして2024年3月にも改訂版が作成されました。日本頭頸部外科学会のウェブサイトに掲載されているのでご覧ください。
レーザ光照射の方法についても発展が見られました。一部の部位に対してフロンタルディフューザー単体では、照射距離の確保や適正な角度の保持が難しい場合がありましたが、2023年に販売開始された医療機器「BioBlade®ディフューザー用ガイド管」を用いることで、下咽頭や喉頭、舌根、頬粘膜などに対してより適切な照射が可能となり、さらに間口は広がりました。
頭頸部アルミノックス治療が治療選択肢として加わり、集学的治療の一環として捉えて治療戦略に組み込まれ、保険診療開始から約3年間で450回以上の施術が実施されています。
頭頸部アルミノックス治療による免疫惹起を実臨床で確認する研究
当院は2023年に、実臨床における頭頸部アルミノックス治療に関する論文「Changes in serum DAMPs and cytokines/chemokines during near-infrared photoimmunotherapy for patients with head and neck cancer」5を発表しました。当院で頭頸部アルミノックス治療を行った5例7施術における血清中の損傷関連分子パターン(DAMPs)(HMGB1とHsp70レベル)およびサイトカイン、ケモカインの変化を本治療の前後で比較した研究です。
米国国立がん研究所の小林久隆先生らが開発した「がん光免疫療法」の論文では、レーザ光照射後に免疫原性細胞死を起こすことによる、がん免疫の賦活化が非臨床で確認されています6,7。そのため臨床における免疫効果の有無の確認が待ち望まれている治療ですが、まだ示されていません。当院の研究所の腫瘍免疫制御トランスレーショナルリサーチ分野長を務める、松下 博和 先生に本研究の相談をし、頭頸部アルミノックス治療の臨床における免疫原性細胞死(Immunogenic cell death: ICD)の確認を試みた研究です。今回の研究では、臨床における免疫賦活化を明確に示すことはできておりませんが、頭頸部アルミノックス治療を受けた患者の末梢血でサイトカインやケモカインの変化を確認することができました。
本研究はICDのエビデンスを捕えるための第一歩であると考えています。本治療のさらなる発展のため、今後も腫瘍環境における免疫反応の研究を行っていきたいと思います。
5月7日(火)に、本記事の続きを掲載予定です。
参考文献
- Burtness B. First-line pembrolizumab for recurrent/metastatic head and neck squamous cell carcinoma (R/M HNSCC): interim results from the phase 3 KEYNOTE-048 study. Abstract LBA8. The ESMO 2018 Congress. October 2018.
- Mehanna H. Cetuximab versus cisplatin in patients with HPV-positive, low risk oropharyngeal cancer, receiving radical radiotherapy. Abstract LBA9. The ESMO 2018 Congress. October 2018.
- Hanai N, Asakage T, Kiyota N, et al. A randomized phase III study to evaluate the value of the omission of prophylactic neck dissection for stage I/II tongue cancer (RESPOND: JCOG1601): Abstracts, Head and neck cancer, Excluding Thyroid, Volume29, Supplement8, VIII396, October 2018. doi: 10.1093/annonc/mdy287.073
- Tahara M, Okano S, Enokida T, et al. A phase I, single-center, open-label study of RM-1929 photoimmunotherapy in Japanese patients with recurrent head and neck squamous cell carcinoma. Int J Clin Oncol 26, 1812–1821 (2021). doi: 10.1007/s10147-021-01960-6.
- Ishihara H, Nishikawa D, Muraoka D, et al. Changes in serum DAMPs and cytokines/chemokines during near-infrared photoimmunotherapy for patients with head and neck cancer. Cancer Med. 2023;00:1-6. doi: 10.1002/cam4.6863.
- Mitsunaga M, Ogawa M, Kosaka N, et al. Cancer cell-selective in vivo near infrared photoimmunotherapy targeting specific membrane molecules. Nat Med. 2011 Nov 6;17(12):1685-91. doi: 10.1038/nm.2554.
- Kobayashi H, Furusawa A, Rosenberg A, et al. Near-infrared photoimmunotherapy of cancer: a new approach that kills cancer cells and enhances anti-cancer host immunity. Int Immunol. 2021 Jan 1;33(1):7-15. doi: 10.1093/intimm/dxaa037.