日本頭頸部外科学会に設置されている頭頸部アルミノックス治療運営委員会の委員長で、東京医科歯科大学 頭頸部外科 教授 朝蔭 孝宏 先生に登場いただいた。頭頸部アルミノックス治療を次のステージに進めるための取り組みや、同委員会の主な活動についてお話を伺った。
※当該製品による治療における警告を含む使用上の注意等の詳細は製品基本情報(電子添文等)をご参照ください。
※本記事で紹介される症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。
頭頸部アルミノックス治療がもたらす頭頸部癌治療への光
2017年6月に、知人の紹介で米国国立衛生研究所 主任研究員 小林久隆先生にお会いすることになったことがきっかけで「がん光免疫療法」を知りました。当時、小林先生について存じておらず、お会いする前に先生らが発表された「がん光免疫療法」の論文を読み、これが人に応用されるようになれば、新たな治療の一手になると興奮したのを今でも覚えています。お会いした時に、ご自身の研究について分かりやすく説明してくださりました。
2021年、日本で頭頸部アルミノックス治療が保険診療として開始され、当院における1例目では、下咽頭癌の再発症例に対して本治療を行いました。口腔咽頭痛は軽度で鎮痛薬(アセトアミノフェン)で管理可能でした。また刺入部の浮腫による咽頭狭窄も起きましたが、ほどなくして改善しました。
全身療法としての分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬に加え、頭頸部アルミノックス治療が実用化され「切除不能な局所進行又は局所再発の頭頸部癌」に対する局所治療としての新しい治療選択肢が増えたと感じました。最近では、本治療の症例を学会の発表でも拝見しており、従来であれば、局所治療としての選択肢がなかった患者さんにとって、恩恵になっていると感じます。
全国で400回以上の施術がされた今、頭頸部アルミノックス治療を次のステージに進める取り組みの一つとして、当院では「再発転移頭頸部癌に対する近赤外光線免疫療法症例におけるバイオマーカー探索研究」(研究課題/領域番号21K09652)を行っています。本治療を施行した症例の生検もしくは手術検体を用いて、①次世代シークエンサーを用いた遺伝子解析、②多重免疫染色を行い、本治療法奏効例における特徴を明らかにすることを目的として研究を行っています。
「頭頸部アルミノックス治療運営員会」の任務とは
頭頸部アルミノックス治療運営委員会は、「特定非営利活動法人 日本頭頸部外科学会」に設置されている委員会で、今年から私が委員長として運営しています。委員会は、頭頸部アルミノックス治療の指導医11名と担当理事の計12名で構成されています。
本治療は、世界中で唯一、日本の頭頸部癌患者さんに日常診療下で治療が行われており、既存の治療とは異なる治療法です。ですので、本運営委員会の任務は、本治療によって恩恵を受けることが期待される患者さんに、まずは安全にこの治療をお届けするという事が最も重要と考えています。
本運営委員会の主な活動について
頭頸部アルミノックス治療委員会の主な活動としては、術前検討会での適応判断や照射方法のアドバイス、頭頸部アルミノックス治療の指導医認定、症例要約集の作成・改訂などがあります。
本治療を導入した施設(※1)は、最初の3施術までは本運営委員会の術前検討会でアドバイスを受けることが必須となっています。術前検討会では、本治療の適応症例であるか、治療によるリスクはないかなど委員会メンバーで議論します。また、光照射のアプローチ方法のアドバイスも行っています。適正な光照射が行えるよう、表在性病変の腫瘍に対して用いるフロンタルディフューザーが良いか、腫瘍内部から照射する際に用いるシリンドリカルディフューザーが良いか、または、これらの2つの照射方法による組み合わせが良いかなどについてアドバイスをしています。
現在、全国に約70名(2023年10月末時点)の頭頸部アルミノックス治療の指導医がいます。指導医は、初回の1施術に立ち合い、実際の状況に応じて適切な治療が実施されるように指導を行っています。これにより、本治療が適正に使用され、安全性が保たれていると考えます。
今後、委員会として検討すべき点としては、指導医の経験値も異なってきているため、照射技術の格差や知識の違いなどが生じないよう、安全性確保のためにも指導医に対する講習会などが必要ではないかなと考えています。
※1 同じ施設であっても耳鼻咽喉科・頭頸部外科と歯科口腔外科の診療科ごとに最初の3施術までは術前検討会が必須となります。
委員会が発行する頭頸部アルミノックス治療の症例要約集について
昨年8月、保険診療下による頭頸部アルミノックス治療の症例要約集の初版を、前期委員の先生方に作成いただきました。本要約集は、各標的部位における留意事項や適応例などが掲載されています。
この度、全国で400回を超える治療が実施され、症例数も増加してきたため、委員会の先生方の全体の経験値が上がってきたタイミングによる改訂を、今年9月に行いました。改訂ポイントは、大きく2つあります。一つ目は、今までの経験や知見から、より具体的な適応ポイントを示し、理解しやすい内容に変更しています。二つ目は、安全に施術を行うための注意点などが追記・修正されました。
本治療に携わっている先生方には、どのような症例が適応となり、どのような症例にリスクがあるかなど本要約集で学んでいただければと思います。
本要約集は、日本頭頸部外科学会内のウェブサイトで公開しておりますので、ご覧ください。
ドクター人生の道しるべ
「偶然」から始まった頭頸部外科医への道
学生の時に、たまたま耳鼻科の授業に出た際に講義を担当していた先生が、手術着の上に白衣を羽織ってきて、「今日は12時間の手術の途中だ」と登場しました。耳鼻科でそんな長時間の手術があるのかと思いましたね。そうしたら、「がんを取るのに4時間、再建材料を取るのに4時間、それを移植するのに4時間。今がんを取り終わって、午後一番の講義に来てる」って。耳鼻科でもそんな治療があるのか、と思ったのが頭頸部外科を知った最初のきっかけです。大学時代で一番記憶に残っていますね。
耳鼻科を選んで医師となった1年後くらいに、直接命と向き合う仕事をしたいなと思い、何があるかなと考えていたところ、目の前に頭頸部があり、この道に進みました。それからは、国立がん研究センター東病院で9年間、レジデントからシニアレジデント、スタッフを経験しながら、ある意味たたき上げで研修を経験しました。その後、東京大学医学部附属病院に戻り講師として迎えてもらって12年、チームリーダーを任せていただきました。そして、2015年に東京医科歯科大学病院 頭頸部外科教授に就任させていただきました。このように、ハイボリュームセンターで仕事を続けることができ、頭頸部外科医としては恵まれている方だと思います。